ハースメルの作品情報・感想・評価

上映館(19館)

「ハースメル」に投稿された感想・評価

破滅的女性パンクロッカーの崩壊と再生。楽屋で主人公が狂気──ありとあらゆる人間への暴力暴言、あるいは独りでの虚言や奇行──を炸裂させる混沌場面が尺の大半を占め、見る者に絶えずフラストレーションを強い続ける…が、すべては終盤の"再生"のために用意された要素でもある。度重なる関係の破壊が、最終的には愛憎を超越した女三人の共鳴に行き着き、圧感のラストライブに雪崩れ込む。

・『百合映画完全ガイド』(星海社新書)にて、本作のレビューを担当しました。
https://www.amazon.co.jp/dp/4065201799/ref=cm_sw_r_cp_api_i_PUrnFbCQ0NZ6N

2020/05/18
GreenT

GreenTの感想・評価

1.5
女性パンクバンド、Something She のライブで幕を開け、すぐに公演後の楽屋裏に移ります。ボーカルのベッキー・サムシングは、コートニー・ラブを彷彿とさせる自己破壊的なパンク・ロッカーで、バンドのメンバー、別れた夫、マネージャー、お母さん、全員に迷惑をかけまくり、自分の乳幼児を抱いたままゲロ吐いてぶっ倒れる。このシーンが45分くらいあっていい加減イライラしてくるのですが、この「早く終わらないかなあ~バカげているなあ~」っていうのがベッキー・サムシングの周りにいる人が感じていたことなんだろうなあと思いました。

ストーリーは、90年代にスピン・マガジンの表紙を飾り、ゴールド・ディスクを獲得したSomething She のカリスマ・ボーカリスト、ベッキー・サムシングが、新人バンドに追い越され、夫とは別れ、ジャンキーになり、リハビリをやり、復活するという王道ロックスターものなのですが、監督・脚本のアレックス・モス・ペリーは、ベッキーのキャラのモデルはアクセル・ローズで、一つのシーンをダラダラ撮るのは2015年の『スティーブ・ジョブズ』の影響を受けたとインタビューで語っていたそうです。

90年代の女性パンクバンドのリアリティがあり、『ボヘミアン・ラプソディ』や『ロケットマン』など、男性中心のメインストリームのバンドとは違う「ロックスター伝記もの」だと思いました。もちろん、この映画はフィクションですが、『ボヘミアン・ラプソディ』や『ロケットマン』だって、「実在したロックスターを基にした創作」とも言えますよね。どこまで本当かわかんないし。

Something She の楽曲は、 Bully's という実在するバンドのAlicia Bognanno という人が手掛けているらしいので、こういう音楽好きな人や、また元スーパーモデルのカーラ・デルヴィーニュ、ジョニデの元妻アンバー・ハード、そしてもちろんエリザベス・モスの芸風が好きな人はハマるかもしれません。

余談ですが、エリック・ストルツがバンドのマネージャー役で出ていてビックリ。

エリザベス・モスはプロデューサーでもあるので、かなり彼女の色が濃くなっていて、ベッキー・サムシングは『ハンドメイズ・テイル 侍女の物語』のジューンと全く同じ、「フェミニスト・キャラ」だなあと思いました。

エリザベス・モスのフェミニスト・キャラは

肌が汚くて太っている
男に支配されない
主張を曲げない

キャラで、こういう女性を否定することで社会はフェミニズムを抑え込んでいるんだから、そういう人を主人公にして描くことで偏向した女性のイメージを払拭し、「等身大」の女性とはどういうものなのかを提示しているのかなあと思った。

その心意気は買いたいんですけど、ちょっとやりすぎというか、暑苦しいというか、ウンザリするレベルまで引っ張るんですよね~この人。この映画のベッキーのキャラは、「ああ、ここまでウザい女だったんだ」ってことを表現したいのでしょうから、「もう観たくない!」って途中で止めた人の負けっていうか、「みんなが分からないから、敢えて見せているんだ!」ってことなのかな~と。

あと、エリザベス・モスのフェミニスト・キャラのもう一つの特徴は、子供に対する愛情が強いんですよね。すげえ自己中で、他人をキズつけても気にしないのに、子供のことはすごく気に掛ける。これは、「社会的に酷い女と言われているからって、悪い母親とは限らない」みたいな主張なのかな?と思うのですが、なんだろ、「自己投影としての愛情」みたいな、結局は自己愛?

原題の『Her Smell』も、自分の娘の匂いのことらしくて、ロックスターとして復活できるかもしれないけど、子供の匂いを嗅いで思いとどまる、みたいな。

子供の件だけじゃなくて、全てが自己陶酔的で、全然共感できないんだけど、ロックスターってこういうナルシストばかりなんだろうから、これがリアリティで、自分も若い時あれほどロックに心酔していたのは、虚構の世界しか見ていなかったってことなんだろうなあ。

オリジナルの楽曲も最悪で、それなのに1曲丸ごと演奏するシーンがいくつも入っていてウンザリする。ブライアン・アダムスの『Heaven』も丸々一曲やるのかよ!とウンザリしたけど、これは曲が悪くないから聴いていられたけど。

この、「曲が良くない」って言うのも、ある意味「「パンクバンドのリアル」なのかな?

個人的には質の悪い映画だと思うんだけど、もしかしたらこれって実験的でリアリティを追及しているからそう見えるだけかも、と思わされる不思議な映画だった。ってことはロックスターの本当の姿は、映画にするほど面白くないもので、「楽しめるロックスター映画」はかなり装飾されているのかな?って思った。
ちかミ

ちかミの感想・評価

2.5
設定は90'sグランジ/パンクシーン。架空のバンドShe Somthingの崩壊と再生のドラマ。

前半は、バンドの成功がフラッシュバックで挿入される以外は、楽屋のシーンがメイン。リーダーのベッキーが、メンバーはじめ関係者に罵詈雑言を吐きまくり、自滅としか言いようのないバンド崩壊に至る。長回し、エレクトロニカなBGM、ナゾの預言者が入り乱れるカオスな映像はなかなか観続けるのが辛かった。

一体何であんなに暴れたのか?①ドラッグ②親子関係③パンクはこうあるべきという思い込み④ペルソナを演じるのに疲れた、多分このどれか、もしくは全てでしょう。

後半は、家族愛とメンバーの友情がキーとなる、よくあるパターンです。ブライアン・アダムス「Heaven」を娘に歌うシーンは良かった。

ベッキー役のエリザベス・モスのブチ切れたロッカー振りは迫力充分ですが、楽曲が何とも御粗末。Bullyの人が作曲したらしいけど、ライブシーンのイケてなさに萎えました。
CHEBUNBUN

CHEBUNBUNの感想・評価

3.5
【カリスマ性のカリカチュア】
本作は、一見すると王道音楽青春ドラマに見える。華やかなライブシーンを提示する。しかし、酒とか音楽性の違いでメンバー内がギスギスしていく。そこから再生していき、最後は爽快なクライマックスを迎える。ありとあらゆる音楽映画で擦り倒されてきたプロットを踏襲し、クリシェにクリシェを重ねたような作品だが、観ると「あっアレックス・ロス・ペリーの作品だ」と分かる。『プーと大人になった僕』が過労に疲れた男が、過去のしがらみがない美しい世界に囚われていく様子を《プーさん》に象徴させ、皮肉混じりに描いて見せたように、この作品も痛烈なカリカチュアとなっています。

ズバリ、今回アレックス・ロス・ペリーは「バンドマンみたいなアーティストってステージ上ではカッコいいが、私生活は本当にクズだよね」という我々が頭の中で薄々認識しておきながらも、無視しようとしている事柄について批評しているのだ。冒頭、過激なファッションでステージに上がるBecky Something(エリザベス・モス)。ヴィジュアルとは少し乖離した爽やか声で歌う。彼女の歌には繊細さがある。しかしながら、ライブが終わり舞台裏にいくと、途端に傲慢さを観客にみせつける。まるで自分が女王で周りが下僕のように高圧的に振る舞い、狂ったように罵倒しジタバタ暴れ狂うのだ。

あまりに自己中心的で狂った姿に観客は、先ほどの爽やかで魅了されたライブのことなんか忘れて彼女にヘイトを抱くことでしょう。そして、これは過去の栄光に囚われた彼女が再びインスピレーションの源を見つけだして再生するまでの話へとシフトしていくのだが、徹底的に彼女の《外側》を魅せていく、疲弊していき蔑視の目を向けるバンドマンを魅せていくのです。

これは音楽好き、ライブとかいく人にとって胸糞悪い作品であることは間違いない。ひょっとすると映画ファンですら気持ち悪くなるのかもしれない。なんたって、日々の鬱屈した日常を離れ、自分が持っていないカリスマ性を持つ者から癒しを求めてライブに行ったり、映画を観たりする。監督はそれを批判し、実はバンドマンの裏の顔ってこんなにもクズだったりするんだよ。カリスマ性ってある種の独裁だよねと声高らかに叫んでいるのだから。

しかしながら、こういった我々が盲目になってしまうような視点としっかり向き合い、批評し続けるアレックス・ロス・ペリーのような映画監督は一人ぐらいいてもいいのではないでしょうか?コロンブスの卵を見つけ続ける彼の今後に期待である。日本でもちゃんと紹介されてほしい作家でした。
[ある女性パンクロッカーの舞台裏] 40点

アレックス・ロス・ペリーは我らがモスお姉様を大好きな『Queen of Earth』を含めて三回使っているのだが、その最新作が本作品である。いつも観客を不快にさせる彼の作品群から見ても、それが最も過激であると言われており、確かに不快かと言われたら不快だった。架空のパンクロッカーに扮したモスお姉様の全行動が全部イラつくのだ。監督的には女性ロッカーの母性やら責任やらを描いて他の作品との差別化を図りたかったのかもしれないが、正直麻薬やってる最近の歌手の話はフィクションだろうが実話ベースだろうが飽和している。

ただ、根本的に不快になるとかいう以前に、長くてつまらない。これに尽きる。2時間半もいらないだろ。半分にできるぜ。