ザ・レッド・チャペルの作品情報・感想・評価(ネタバレなし)

ザ・レッド・チャペル2009年製作の映画)

DET RØDE KAPEL/The Red Chapel

上映日:2021年11月27日

製作国:

上映時間:91分

「ザ・レッド・チャペル」に投稿された感想・評価

suzuai

suzuaiの感想・評価

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現地の人たちは、「撮影」に際して、ある一方向だけを真っ直ぐに見つめながら、求められる台詞とふるまいを愚直にこなしてみせる。そこに個々のアイデンティティを介在させることは許されていないし、そもそもそんなものは無いとされていることを目の当たりにしたヤコブが受け取った絶望や嘆きが本当に苦しかったです。ただ、「撮影」の隙間にはちらりちらりと、人間として生きている表情が映り込んでいて、それに少しだけ救われました。
やっぱり、マッツ・ブリュガーって監督、ぶっ飛んでるんだな。『誰がハマーショルドを殺したか』も『THE MOLE』も異常な作品だったけど、この『ザ・レッド・チャペル』もとんでもない映画だった。

マッツと共に北朝鮮入りした、韓国系デンマーク人のヤコブが、マッツにこんなことを言う場面がある。

【君の良心が咎めないの?
良心の呵責は皆無なの?】

これに対してマッツは「北朝鮮に対してはない」と断言する。

ヤコブがどのような意図で「良心」の話を持ち出したのかは正直良くわからなかったが、マッツが受け取った通り「北朝鮮に対する良心」という意味であれば、確かに僕も「ない」と答えるかもしれない。

ただこれは、僕が日本人だからだろうとも思う。北朝鮮と否応無しに付き合わざるを得ない、そして、どうやっても良い関わり合いにはなりようがない日本からすれば、北朝鮮に対して「良心」を感じないことはさほど不思議ではない。

しかし、日本にいるとなかなか気づかないが、世界の「北朝鮮」に対する感覚は、日本のそれとは違うようだ。

世界で見れば、約80%の国が北朝鮮と国交がある。国交があるからと言って友好的とは限らないが、少なくとも日本やアメリカのように、国交を断絶はしていない。

以前観た『THE MOLE』という作品では、「デンマーク北朝鮮友好協会」という組織が登場する。その名の通り、デンマークに存在する北朝鮮と友好的な関係を持とうとする団体だ。さらに「KFA」という、世界規模の北朝鮮友好団体が存在する。

マッツは北朝鮮がどんな国なのか知っており、

【北朝鮮の邪悪さを世界に示せると思った】

という動機でこの映画の撮影に挑んでいる。

一方ヤコブは、当然北朝鮮に渡航するのは初めてであり、北朝鮮がどういう国であるかについて詳しく知らなかった。彼は北朝鮮で、

【耐えられない。
僕らにはなにも出来ない。僕は役立たずだ。
あんなウソっぱち、どうにも我慢ならない。
笑うフリをして、我慢し続けた。求められた役割を演じていただけだ。
あんなの、とても耐えられない】

と言って泣き叫ぶ。何を見たのか。それは、我々日本人には割とお馴染みの、「北朝鮮が歓迎の印として、張り付いたような笑顔で歌ったり踊ったりする様子」である。彼らは歓待され、様々な催し物を見ることになったが、ヤコブはその「異常さ」に恐怖して泣き叫んだのだ。

しかしだからといって、ヤコブは、北朝鮮の人たちが「邪悪」だとまで考えなかったのだろう。しかしヤコブはマッツから、

【君と僕の安全を確保するために、嘘をつかなければならないんだ】

と、幾度となく説得される。

そんな、「明らかに本心ではないことを口にして、良心が咎めないのか」という叫びが、ヤコブの内側から湧き出てしまったのだろう。

ヤコブのこの「良心」に関する追及から、日本と外国では「北朝鮮」をどう見るかという視点が異なるのだということを改めて実感させられた。

さて、ここまでの記述に疑問を抱いた人もいるかもしれない。

引用したような会話を、彼らは「北朝鮮国内」で行っている。北朝鮮では想像の通り、撮影された映像はすべて提出させられ、チェックを受ける。普通に考えれば、北朝鮮に知られたら一発アウトな会話を多数しているのに、彼らはどうして無事なのだろうか?

この辺り、実に巧妙というか、非常によくできている。そして、その「巧妙さ」の方にこそむしろ、マッツという人物の「良心の無さ」が透けて見えるように僕には感じられる。

まず非常に都合が良いのが、彼らが「デンマーク人」であり、母語が「デンマーク語」だということだ。もちろんマッツは英語を喋れるし、マッツ・ヤコブと共に北朝鮮に渡ったシモンも英語を話す。北朝鮮には、パクさんという通訳兼世話係兼監視役の女性がおり、その女性が英語を話すのでコミュニケーションは成り立つ。

さて、ヤコブは英語を話せない。しかも、「英語を話せない」というだけではない。彼は脳性マヒという障害を負っているのだ。ヤコブが話せるのはデンマーク語だけだが、仮に北朝鮮にデンマーク語を理解できる人物がいたとしても、ヤコブのデンマーク語は脳性マヒのせいで非常に聞き取りにくい。

ヤコブが何かマズいことを発しても、北朝鮮の人はそれを聞き取れない。マッツは、ヤコブのマズい発言を、適当に良い言葉に変えて翻訳して伝えている。

そんなわけで、ヤコブだけが北朝鮮国内で、自由に発言することが可能なのだ。

さらにヤコブの脳性マヒという障害を、マッツは上手く利用している。その説明のために、マッツがいかにして北朝鮮訪問を実現したのかに触れよう。

マッツは、ヤコブ・シモンという2人の「韓国系デンマーク人」のコメディアンのショーを行うという名目で北朝鮮入りした。ヤコブもシモンも共に、韓国で生まれながらデンマークに養子に出された人物である。

ヤコブとシモンは別にコメディアンというわけではなく、「権力者はコメディアンが好きだ」というマッツの発想から、即席でコメディアンの訓練を積んで北朝鮮入りした。

だからこそ当然、彼らのショーは非常にレベルが低い。そんなことは当然マッツも理解している。というか、レベルの低いショーを持ち込むことで、北朝鮮がどんな反応を示すのか見ようという意図もあるはずだ。

しかしマッツにも1点、気がかりな点はあった。それは、「レベルが低いからショーを取りやめよう」という結論になる可能性だ。彼らのショーは国立劇場で披露されることになっている。日本で言ったら帝国劇場のような場所だろうか。当然、一定以上のレベルが求められるはずだ。

しかし、川辺で彼らのリハーサルを見た北朝鮮側の人間は、渋い顔をしながらも、ショーの中止には言及しなかった。

その理由をマッツは2つ想像する。

1つは、彼らが「韓国系デンマーク人」であることが関係している。北朝鮮としては、「朝鮮からデンマークに養子に出された人物が、”南”ではなく”北”を選んで凱旋した」という点がアピールになると考えたのだろう、という推測だ。この点はショーの成否に関わると考えたのだろう、マッツは事あるごとに彼らを「デンマーク系朝鮮人」と紹介していた。

そしてもう1つの理由が、ヤコブの「脳性マヒ」だ。北朝鮮には、「障害者は生まれた時に殺す」とか「一生施設に閉じ込めておく」というような噂があるらしい。ヤコブを大切に扱っていることを示すことで、そんな疑惑を払拭できると考えたのだろう、とマッツは推測する。

もちろんマッツとしても、北朝鮮がそう判断すると踏んで「脳性マヒ」のヤコブを組み入れている。なかなかのメンタリティだと言っていいだろう。

さてヤコブは、世話係のパクさんから息子同然のように親切に扱われる。しかしそんなパクさんの態度に対してヤコブは、

【異常で薄気味悪い気分がする。息が詰まる思いだ。
全部この女性のせいだよ】

と、後ろにパクさんがいる状況で口にする。また別の場面では、こんなことも話していた。

【彼らがイカれてると感じるのは、僕に対して異常に親切であることだ。
でも僕にははっきり分かる。
彼らは心底、僕を軽蔑しているんだ】

普段から「障害を持つ存在」として他人からの視線に敏感だからこそ、他国の人の視線も理解できるのだろう。ヤコブと同じレベルで理解することは出来ていないだろうが、僕としてもこの映画を見ながら、表面上の振る舞いとは裏腹に、彼らはヤコブを「同類」とは扱っていないのだろうな、と感じさせられた。

映画の中では当然、彼らのショーの準備の場面が多く映し出される。そして、それだけを見ていても北朝鮮の「異常さ」が理解できる。

今回のショーを取り仕切る北朝鮮側の責任者(舞台監督)は、ヤコブとシモンがリハーサルで見せた内容をがらりと変えると提案する。提案というか、変えなければ上演させない、という意思だと言っていいだろう。というのも、北朝鮮入りする前の打ち合わせではショーに合わせて楽団が演奏するということになっていたが、当初彼らはリハーサルに現れなかったからだ。ショーのレベルが低いから、楽団を関わらせるのは止めよう、という判断だと誰もが受け取るだろう。

まあ、ショーのレベルが低いことはマッツら3人は承知していることだし、変更はやむを得ないかもしれない。しかし、北朝鮮による変更を、彼らは「支離滅裂で意味不明」と受け取った。しかも、イデオロギー的な主張は含めないという当初の約束をあっさり破り、「朝鮮は1つ」というようなセリフを入れ込む始末だ。

ヤコブもシモンも、北朝鮮による改変に当然納得せず、反対の声を挙げるのだが、マッツは要求を飲み、上演を実現させることに注力する。

このような展開に対し、マッツはこんな風に述懐している。

【北朝鮮にとっての「文化交流」とは、北朝鮮の文化を一方的に押し付けることなのだ】

改変された演目からは、デンマーク的な要素は一切廃されることとなり、ヤコブもシモンも、なんだか分からないまま舞台監督の指示する通りに演じることとなった。

さて彼らは、観光などもする。『THE MOLE』でも同じことを感じたが、この映画では、北朝鮮の日常風景が映し出されているのが凄い。もちろんすべて検閲済であり、北朝鮮が見せていいと判断したものに限られるわけだが、それにしても、普段なかなか映像で観る機会のない、北朝鮮の一般市民の様子が映し出されている。

まあ、「一般市民」と呼んでいいのかは難しいが。マッツはこんな風に言っている。

【平壌の市民は、現政権が用意した舞台上で演技をするエキストラだ】

なるほど、言い得て妙という感じだろう。また、こんな指摘をする場面もある。

【最高指導者を思って泣くことは、国民がつらさや悲しみを表現する唯一の手段だ】

歓迎のための踊りを披露してくれた、小学生か入学前に見える幼い女の子たちが、マッツらが去る際に手を振り続ける場面ではこんなナレーションが入る。

【この風景こそが、北朝鮮の日常と言っていいだろう。
恐怖からの拍手。
カメラが回り続ける限り、手を叩き続けるのだ】

「文化交流と称して北朝鮮に潜入し、その実像を映し出す」というマッツの思惑は、かなり上手くいったと言っていいだろう。

この映画の中心軸にはヤコブの存在があり、映画は、ヤコブの印象的な場面で終わる。その具体的な内容には触れないが、マッツの指示である内容の手紙を書きパクさんに渡す場面だ。それまでパクさんに対して様々な形で嫌悪感を示していたヤコブは、この場面で「助け舟」を出すのである。

それがどのような気持ちの変化によるものなのか、具体的には触れられていなかったが、北朝鮮にやってきた時とは違う実感を得られるようになったのだろうヤコブの変化が印象的だった。

しかしホント、とんでもない映画が存在するものだ。マッツ・ブリュガーはなかなかイカれてるし、それ以上に北朝鮮という国が輪をかけてイカれている。
みすみ

みすみの感想・評価

4.3
デンマークの芸人さん達が北朝鮮にて公演。

国際交流とは名ばかりの、北朝鮮側の対応。全てが彼らの思惑通り、プロパカンダに向けての対応に変えられていきます。
純粋な心の持ち主は、次第に精神のバランスを崩していく。。

北朝鮮側のお世話係の女性と、滞在中片時も離れなかったのに、別れは事務的で大人の対応のみとなりました。
女性は寂しい寂しいと繰り返していたけどね。。
JIHO

JIHOの感想・評価

4.0
いろんな意味で怖い映画。
関わってしまった共和国の人達が大変不安。
だけど、監督が言った、
この国の民衆はナチスのドイツ国民と同じ。
ナチスに占領されたデンマークの監督には言えるキツい台詞。
全体主義の怖さをたっぷり描いた観る人を選ぶドキュメンタリー。
sasha2021

sasha2021の感想・評価

5.0
韓国系デンマーク人コメディアンの凱旋パフォーマンス!南でやると思ったら北でやっちゃったトンデモドキュメンタリー💥とにかく全てがシニカルでスパイシーで悪魔的!😈字幕付きで完成版のこの作品を見た将軍様の顔が見てみたい🙄この国とヤコブ(先天性脳性麻痺を抱えるコメディアン)の掛け合わせの気まずさといいようのない背徳感がしびれる😳向こうがデンマーク語分からないことをいいことに「異常で薄気味悪い」とかポロっと言っちゃう危機感の無さ笑 それを慌てて「とても感銘を受けたと言っています」と英訳でカバーする監督😂 金日成の銅像を見た瞬間に涙ぐむしらじらしい演技を続ける通訳。。
なんでもプロパガンダに利用するあの国の悪魔的な嘘っぱちの愛国主義、処罰に恐れ慄く国民の実態を世界に露呈しちゃった。「ここでは誰もが犯罪者であり容疑者」とは上手く言ったものだ。二人のパフォーマンス相当酷かったけど、北側の演出の人がめっちゃ口出ししてきて、結局デンマーク要素ゼロ。オリジナルストーリーガン無視の「共に生きよう!共に死のう!」みたいなプロパガンダ満載の薄気味悪い茶番になっちゃって、北朝鮮にとって文化交流とか多文化への理解とか1ミリも意味をなさないものなんだと呆れてしまった、、一番気に障ったのは観客はヤコブが障害者だと知らないから障害者を演じた健常者のふりをしようとさせたこと。彼からセリフを剥奪し、代わりに笛を吹かせた。こんな侮辱は許容できない。いったい彼らはいつの時代を生きてるんだか。現代版ナチスと揶揄されても仕方ない。甚だしい人権侵害と邪悪さを世界が目撃しました。ここだけは本当に笑えなかった。
ヤコブの正直さとナイーブさがめっちゃ好き。間違いなく一番正論を言ってるんだけど、「ここは北朝鮮だぜ??正論なんてない異星人の住む国だぜ?戦時下のナチスドイツに来たようなもんだぜ?」って言いたい監督のモヤモヤと焦りがめっちゃ伝わった😨極め付けは反アメリカの平和式典という全国民、幹部が総出で参加する壮大な式典でみんなが(あくまで嘘で塗り固めた北の歴史認識だが)反アメリカ・平和を願って拳を空へ突き上げる行進があったのだが、一人だけ頑なに拳をあげないヤコブ。監督が「みんなが僕らを見てる。僕らの身の安全のためだ。頼む同じようにやってくれ」と諭すが子供のように絶対信念を曲げないヤコブ。テレビに映る一人だけ不機嫌なヤコブの姿。。さすがにこのシーンはヒヤヒヤしました💦
シリアスな話、障害者を生まれた瞬間に殺すと言われている国。通訳の女性がヤコブのことを「自分の息子以上の存在」と繰り返していたが内心はどうだろうか。正直発言がいちいち薄気味悪かった。これもプロパガンダだろうか。ヤコブがふと漏らした言葉。「一番気持ち悪いのはここの人たちが僕を温かく迎えていることだ。でもみんな内心は軽蔑している。それが分かるから僕は被害妄想してしまうんだ」は私もそういう空気を感じとっていたから切なくなった。とにもかくにも今年一番笑わせてもらいました✨👏シニカルで毒がたっぷりの笑い😈
okimee

okimeeの感想・評価

3.7
「誰がハマーショルドを殺したか」を見たときから、出禁となったこの作品、見て見たくて仕方なかった。
THE MOLEはテレビのドキュメンタリーで視聴済み。(映画版も配信されたらみる)

直近で見た北朝鮮モノが「ちょっと北朝鮮まで行ってくるけん。」だったので、
始めから悪意を持って悪しかないと断定して作っている今作が、なんか違和感と不快感だけだった。
でも進むにつれて、これも監督が映画のためにやってるだけなんだと思えるようになって不快感は消えた。
ヤコブが言っていたように「色々な面をもった国」なのだ。ややこしすぎ。

企画はおもしろすぎ。
PARPAR8266

PARPAR8266の感想・評価

3.7
マジでこの監督、大丈夫か?(安否)
劇場で俯瞰で観てる観客が1番気楽に面白がれる(※終始コメディとして作られている)けど、作品のことを思い返すとやっぱり笑っては居られない。
北朝鮮という国をどう認識すれば良いのか分かりません。
エンタテイメントで描かれる北朝鮮の描写も、このドキュメンタリーで捉えた映像も本質的な部分は投影されているとは思うけど、だとしたらやっぱり穏やかじゃない。
同監督作品のThe MOLEが凄く衝撃的なドキュメンタリーだっただけに、怖いもの見たさで鑑賞したが、下手なこと言えないな…
稚拙的でなんのこっちゃねん?なレビューで申し訳ないけど、どっちも異常。
ヤコブのピュアさが1番健常。
ただ、この作品を経て、The MOLEを製作した監督の執念よ。
金正日政権下の北朝鮮でコメディの上演を許可されて、北朝鮮に渡航するデンマーク人たちによるドキュメンタリー。

「笑ってはいけない北朝鮮」かと思って鑑賞したら、ぜんぜん笑えない北朝鮮の実情を垣間見ることが出来た。

作品自体は2006年にTV向けに放送されたものを2009年に映画として再編集したものらしい。監督のマッツ・ブリュガーは、突撃ものを色々と手掛けてる人。

彼が引き連れてきたコメディアンは、二人とも韓国語を話せない朝鮮系デンマーク人。しかもその一人、ヤコブは脳性麻痺の障碍者コメディアン。この時点で、「北朝鮮で出来るだけトラブりそうな画を撮って作品にしてやろう」という悪意に満ちてる。

彼らを世話するのが、英語が堪能なパクさん。地方の市会議員にいそうなオバサンであるところのパクさんは軍で英語を学んだということで、明らかに秘密警察というか、監督たちの監視役。お互い、秘めた思いが180度違うので

監督「お会いできて光栄です」
パク「会えて感動したわ」
監督「えっ、何で?」
パク「愛国心で感動したの」

と、会話してても支離滅裂。つか、会話になってない。

そんな悪意vs悪意の緊張感の中で、二週間後の本番に向けてリハーサルを開始するデンマーク人、御一行。

最初にリハーサルするのが、そこらへんにある公園の空き地。国家に招聘されてんだから、もうちょっと良い場所あるんじゃないかという気もする。

リハーサルの様子を観た、現地の演出家のオッサンは渋い顔。どうやら、内容が気に入らないらしい。

次第に、演出家のオッサンとパクさんは作品内容の改訂を要求し始める。

・障碍者は実際は障碍者じゃないふりをしろ
・台詞は全部いらないので笛で表現
・北朝鮮のプロパガンダを入れろ

と、無茶苦茶な要求を突きつけて、内容がどんどん変わっていく。どーでもいいけど、笛で全てを表現させようとする現地の演出家のオッサンは、おそらく黒木香のファン。

全てが嘘と虚飾に満ちた北朝鮮での日々にストレスを感じた脳性麻痺のヤコブは、「こんな国最低だ」「俺は嘘がつけない」と本音を漏らし始める。ただ、デンマーク語なので、「この国は最高だと言ってます」「感動してます」と、全然違う意味に変換して、英語でパクさんに伝える監督。このへんのすれ違いは面白い。

リハーサルの合間には観光や表敬訪問が挟まれる。

カメラが回っている限り、ずっと拍手し続ける現地の小学生たち。朝鮮戦争の開戦記念日に、一糸乱れぬ行進を披露して「朝鮮戦争はアメリカが北朝鮮を侵略した」と信じさせられる国民たち。何百万人を餓死させたと言われる金日成の銅像の前で「偉大なる将軍様」と涙するパクさんたち。人っ子ひとりいない平壌の様子。そして、デンマーク人たちの意味不明なコメディの上演に集った、観客たち。

監督が「永遠に演技を続けている国民」と言っていたように、北朝鮮の人たちのディストピアな日常を垣間見ることが出来て、それだけでも観た価値のある作品でした。

オアシスの「ワンダーウォール」や、ジョン・レノンの「イマジン」、ビートルズの「愛こそは全て」といった曲の弾き語りは、北朝鮮の人たちに伝わったのかな。

それとパクさん、こんな作品で晒されてて、このあと大丈夫だったのかな、って心配になる。めっちゃデンマーク人たちに騙されて北朝鮮内部を案内してるわけだから……「トゥルーノース」みたいな目にあってないことを祈ります。

ここからは自分語り。

この作品でも北朝鮮側から訪問する、北朝鮮と韓国の国境・板門店。俺も一度ツアーで行ったことある。

ツアーは基本的には外国人向け。ソウル早朝出発のツアーバスに乗って2時間くらいでDMZ(非武装地帯)に到着。

パスポートチェック後、国連の運行するバスに乗り換えて、板門店の手前で降ろされる。

手前の建物で、まずは板門店の歴史を解説したビデオを見せられる。

以前に発生した北朝鮮とのトラブルで命を落とした人たちがいる、といったエピソードが紹介され

「板門店では、北朝鮮を指差したり、笑ったりしてはイケマセン」

と念押しされる。北朝鮮の人たちを刺激するからなんだとか。

そうして板門店に徒歩で向かう。国境の向こうには北朝鮮側の建物が幾つか見え、銃を持った兵士が何人も立っている。板門店はプレハブ小屋みたいな簡素な平屋建て。38度線を示す白線にまたがって建設されている。

板門店の北朝鮮側も韓国側も、兵士が半身だけを出して警備している。半身だけ出すのは、「瞬時に、攻撃にも防御にも対応できる」ためらしい。

板門店の中は、この作品にあるように、ガランとしてて、テーブルがあるだけ。俺が訪問したのは2019年より前だが、2019年にトランプ大統領と金正恩が会談したのもココ。

高い崖の上とかに行くと「もしかしてトチ狂って飛び降りてしまうんじゃないか」って変な妄想に取り憑かれる高所恐怖症の俺。今回も、トチ狂って北朝鮮側に駆け出したら大問題になるんだろうな、と考えたら緊張でブルブル震えてしまい、観光どころじゃなかった。

現在は観光地と化したベルリンの壁のように、いつの日か北朝鮮の人たちがここを自由に行き来できるような未来が来ることを祈ります。

板門店、行く前は中華料理のレストランみたいな場所だと誤解してたのだが、戦争の最前線、ってピリピリ感が痛いほどに伝わってきて、帰りはドッと疲れてしまった。

おかげでその後は、癒やしを求めて韓国エステに……(以下略)。

(おしまい)
Wonkavator

Wonkavatorの感想・評価

3.0
思ってたほどの切り込みや悪ノリは無く、先日観た「ザ・モール」のほうが出来が良かったんじゃ無いかな?
期待し過ぎた...
MALPASO

MALPASOの感想・評価

3.5
映画『ザ・レッド・チャペル』

ドキュメンタリー。
北朝鮮にオアシスの♪ワンダー・ウォール!

北朝鮮に潜入した元料理人が暴く武器売買の実態を描いた『ザ・モール』のマッズ・ブルッガー監督の2009年の作品。北朝鮮の実態を潜入撮影するために、文化交流という名目で、二人の朝鮮人コメディアンと乗り込む。
コメディアン、ジェイコブとサイモンは、デンマーク人の養子として育った朝鮮人。

オアシスの♪ワンダー・ウォールを歌いたいと言うが・・・。ジェイコブには障害があり、車椅子で移動。北では障害のある子供は殺されると言う噂がある。この事を引率の女性に質問すると言う・・・。コメディアンとしては面白くない2人。リハーサルで披露するネタに北は困り果てる。
3人は「プッシー・キャット」と北の女性に言わせたり、悪ノリもし始める。

監督もインタビューで語っていたが、一行の世話をする女性がジェイコブに対し、「息子のようだ」などと愛情を見せたりするが、本心が見えてこない。不気味といえば不気味だけど、結果この映画によって馬鹿にされたことを知った北朝鮮政府。監督はその後入国禁止となったが、この撮影に登場した人たちのその後も気になる。

途中、ジェイコブが嘘をつくのが嫌になり疑問を呈する、それに一瞬考えさせられる。人々は好きで従ってるわけじゃない。独裁はよくないよな。
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