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ベネデッタのRenのレビュー・感想・評価

ベネデッタ(2021年製作の映画)
4.0
【ベネデッタ・カルリーニ】17世紀に実在した修道女。幼い頃からキリストのビジョンを見、聖痕を付けられ奇跡を起こす彼女は群衆から崇められた。一方、シスターのバルトロメアと性的関係を持った疑惑で、同性愛の罪により裁判にかけられた。

『氷の微笑』(数年前に観た)と『スターシップ・トゥルーパーズ』だけ鑑賞済の状態で臨んだ。R-18に飢えた刺激的映画中毒者をしっかり満足させつつ作り上げた圧巻のフェミニズム映画という感じでめちゃくちゃ良かった。

事前知識が無くても全て理解できる。何も知らずふらっと観に行った観客を絶対に振り落とさず、まず劇薬エンターテイメントとして成り立たせようとする意識の高さが嬉しかった。
「キリスト教に全く詳しくないけど大丈夫かな....」「歴史映画のフリしたポリコレ説教映画なんて観たくねーよ!」という方、とりあえず(痛々しい暴力描写と過剰なヌーディティを目撃する覚悟だけ持って)観てみてほしい。

ゴミみたいな男性性が頂点に君臨する社会、その下で支配され搾取される女性、という構造がまずある。その中で、血塗れになりながらそれでも這い上がるベネデッタを「ここまでやっていいの?」な映像で捉え続けた。
ベネデッタ(ヴィルジニー・エフィラ)の「奇跡」の真偽はずっとあやふやだ。真意も読みづらいし、安易に主人公然とした主人公にはなってくれない。だが、それはこの時代の社会のシステムの穴をついてのし上がる強かさを表していた。ミステリの定番「信頼できない語り手」スタイルがこんな使われ方をしていることに新鮮さと驚きを抱く。最後には、彼女ならこの男性社会もろとも焼き尽くせるのでは?と期待を込めて前のめりになれるくらいにはライドできた。

終盤を彩る、タランティーノ的な上を下への大騒ぎ。
映画だからこそ/この時代だからこその狂乱っぷりと、テーマに沿った真っ当な快感(と呼んで良いかは分からないが)があって最高であった。

ベネデッタのビジョンに出てくるイエスは安っぽい漫画の王子キャラのようで、文字通りのアイドルに見えた。蛇の夢は性的欲求の表れとフロイトも言っていたし、今作は悶々と夢を見続け情愛に耽る女性の官能歴史映画的側面もあるのかなと思った。『最後の決闘裁判』のようでありながら『お嬢さん』的側面もある気がする。俗欲全部飲み込んでぶちかますエンパワーメントムービー。

それを全身で体現する俳優陣、相当リスキーな役を全力で演じ切ったことに拍手を送りたい。現場の精神ケア体制などがとても気になる。
それだけに今作が、明らかに性的消費だけが目的の「濡れ場がエロい映画○選!」みたいなサイトの餌食にならないことを切に願う。そのセクシャルな映像は「暴力的な男性性の支配と女性の消費のグロさの象徴」「観客への注意の引き寄せと問題提起」として存在するべきだ。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』はそこを上手くクリアしてみせたことで幅広い層に届き話題になったけど、今作はしっかり確実にゾーニングされた上でより多くの人に観られてほしい。

脳裏に焼き付いて離れないセンシティブな映像で、時代性と現代的フェミニズムを力づくで封じ込めたこれ以上ないパワフルな気概に満ちた映画。エロやバイオレンスを超えた魂を感じる。

その他、
○ 母性や女性性を象徴するような乳房のショット。物語上無くてもいいところで母乳が出ることを見せるために胸を出す。ベネデッタは幼少期から乳房に執着があったように見える(マリア像が倒れたところ)。
○ ラストのテロップ。後味は不思議と良かった。
○『エクソシスト』?『真実の行方』?
2件
  • toruman

    ポール・バーホーベンの作品は殆ど観ていますが、逃げの無い真摯な作品を提供し続けてますが、これも良さそうですね。 信用できる監督なので、時間を作って観たいと思っています。

  • Ren

    torumanさん ヴァーホーヴェン識者の方の感じ方もとても気になるので、ぜひおすすめしたいです。「逃げの無い」はまさにその通りだと思いました。素晴らしかったです😊

Ren

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点数は0.5刻み、たまに変動