山椒大夫の作品情報・感想・評価

「山椒大夫」に投稿された感想・評価

ハマオ

ハマオの感想・評価

4.3
DVDで鑑賞したがDVD画質の中で作中に美しさを感じられるロングショットが随所に挟められており、もし劇場の画質や4Kデジタルリマスターの画質ならどうなっていたのだろうと思った。

ストーリーは森鴎外の原作を忠実に描いた事の弊害もあるのだろうが編集が少したるくてやや長い気がした。しかし、杏樹や厨子王たちの貴人から奴婢への転落、中盤の美しい入水シーン、ラストの再会シーンに感情移入できるのであれば問題が無いとは思う。
個人的に溝口の最高傑作と言われる雨月物語と比較すると編集の面白さなどでは雨月物語に軍配が上がるが、
美しさ一択では山椒大夫が上がる。それぐらい本作に美しさや華やかさを感じるショットが多い。
ROY

ROYの感想・評価

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森鴎外の小説原作。撮影の宮川一夫の計算し尽くされた美しい構図。長回しというのを感じさせないカメラワーク。
フェリーニ『道』にどことなく似てるなぁと思って観ていたらどちらも1954年作だった。白く輝くススキ野原の描写は『大地のうた』(1955)と甲乙つけがたい美しさ。この頃は世界中で美しいモノクロ作品が作られていたんですね。
田中絹代が杖をつきながら海辺でふたりの名前を連呼するカットから姥捨山→安寿の入水→祈り、まではハイライトで胸を打たれる。

平安時代の生活なんて想像を絶するし、人売り、奴隷、残虐な見せしめの罰、うば捨て等々当たり前だったのだろう。生きることで精一杯だったのだから。だからこそ母子の愛や老婆の祈りなど、いつの時代も変わらない人の心の尊さが胸を打つ。
なのでどうしても辛口になってしまうのだけど、厨子王が急に改心し瀕死の老婆を介抱してからラストまでの流れ、また「人は皆平等」という考えも含め絵に描いた餅のように感じた。説明過多の後半がやけに長く感じたのも前半に比べてリアリティが薄くなったから。鷗外の小説ではどんなふうに描かれているんだろうか。

映像美には浸れたけど、溝口監督とは残念ながらまだ打ち解けられずにいます笑
もう少し追ってみたいと思います。
yuko

yukoの感想・評価

4.0
2018.5.26 札幌プラザ2.5
(札幌映画サークル)
シネマトーク:香川京子さん・楢部一視さん

安寿と厨子王って、こういう話だっけ!?人身売買、奴隷、脱走したら額に焼印...怖い〜!
お母さんの「安寿〜」「厨子王〜」と探し求める声もなんだかホラーっぽく耳に焼き付く。
安寿の入水シーンが美しく印象的。
Uknow

Uknowの感想・評価

3.5

このレビューはネタバレを含みます

原作既読。

人がまだ人としての目ざめを持たない時代
人の世の嘆きの限りを込めた逸話

「人は慈悲の心を失っては人ではない
 己を責めても人には情けをかけよ
 人は等しくこの世に生まれてきたものだ
 幸せに隔てがあっては良いはずがない 」

「どんなに重く責められても 
 死人の口から聞き出すことはできませぬわ」

_
・姉弟→兄妹
・冒頭から父親の身分が明かされている
・年齢がだいぶ上
・山岡大夫→巫女(老婆)
・萱草(わすれぐさ)→陸奥若(むつわか)
 垣衣(しのぶぐさ)→忍(しのぶ)
・厨子王恋しや 安寿恋しやを小春が歌っている

 原作のままでもよかった気がするけど、どうなんだろうか。姉や母、使いといった周りの女たちがみんな年上で、その中に幼い厨子王があって、女たちの献身とも言える愛と、仏への信心によって願いが果たされたっていう原作からこれだと、妹犠牲にしてちょっと兄貴頼りないぜ…
 原作は女性要素強かったから男性多く入れてきたのかなとか思ったり思わなかったり。
 でも半世紀も昔とは思えないほど見応えあり。やはり母子の邂逅シーンなんかは映像になるとまた別の感動がある。

・安寿が沼に身を沈めるシーンと任を解く申し出を渡した後の御簾越しの画面作りが綺麗

_
一重積んでは父のため
二重積んでは母のため
三重積んでは故郷の
兄弟わが身と回向して
私は森鷗外さんの小説が先ですので、安寿さんが妹であることに違和感がありました。私に姉がいるので厨子王さんに自分を投影してましたが、今回はそういきません。それで、今回は寄進地系荘園の恐ろしさを知りましたね。惣村による自治が待たれますよ、ほんと。
しょっぱく ピリ辛(※1) 泣かす旅(※2)に出るよ
巡り巡り(※3) 今夜(※4)さ 今は気付けない君の見所
だからチャームポイント全部調査(※5)したい
All right(※6)
Zuidou

Zuidouの感想・評価

4.4
のっけから森の中を行脚しているところからして「移動」の映画だと思った。というかもしかして映画とか物語ってものの核になるのは「移動」なのか。物理的な移動、地位の移動、気高さから卑しさへの移動、年月の移動、と見ようによっては全てが移動だったように思えてくる。更に推し進めて考えていくと人の一生とは即ち移動なのでは・・・とまで考えてしまったのはこの映画が扱う物がそれだけ根源的であったということなのかも。若き日の香川京子さんの輝きたるや。若さから老いへ、それもまた移動か。
「閉域」という主題 
中世の奴隷空間からの脱出を描き、人間の尊厳を問い直す。ネオリアリズム的溝口の演出はもちろんのこと、徹底した俯瞰のロングショットによる斜面を下る運動の積み重ねによって脱出を下降の運動に集約する手法も感動的で、カイエデュシネマの批評家たちが称賛するものをスクリーンで目撃できたことが喜ばしい。

安寿の死へと向かうシーンの水の静寂が忘れられない。
本日5月16日は世界に誇る巨匠・溝口健二監督の生誕120周年に当たります!

溝口の代表作の一つ『山椒大夫』は、安寿と厨子王の伝説として日本古来から親しまれる説教節『さんせう太夫』をベースに、文豪・森鴎外が編纂した小説を更に映画化したもの。

不条理にも貴人から下人へと身を落とした厨子王が悲劇の末に復讐を果たすという因果応報の原典とは多少異なり、
散々になった家族の絆が全面に押し出された鴎外版は一層感動的に仕上げられています。
そこに溝口の映像美と徹底したリアリズムが添加された本作は、日本屈指の名画として今なお鮮烈な感動を呼び起こしてくれるのです。

溝口はヌーヴェルヴァーグの精鋭たちに多大な影響を与えただけでなく、
寡作の巨匠ビクトル・エリセ監督に至っては本作をきっかけに映画監督を志したほど!

ここで描かれる主人公の父親は、虐げられ困窮した民衆のために謀反を働いた逆賊の官吏。
この設定は森鴎外の創作ですが、その人物像は陽明学者・大塩平八郎に起因するところが大きいと思います。

大塩平八郎は江戸幕府の役人でありながら、官僚体制の腐敗ならびに飢饉に苦しむ庶民を尻目に私腹を肥やす豪商に対し、天誅を下すべく「大塩の乱」を起こした慈悲の偉人であり、
実際に森鴎外は『山椒大夫』を発表する前年の1914年に小説『大塩平八郎』を執筆しています。

元々鴎外も官吏の経歴がありますが、1910年代には「大義・忠誠」についての作品を多く執筆しており、それは当時第一次世界大戦の渦中に課せられた、彼なりの課題のようにも思えます。

また過酷な奴隷的労働環境を是正する描写も鴎外の創作なわけですが、ある種の社会民主主義的思想をも匂わせるこの部分には、現在の労働基準法の元に当たる工場法~労働者保護法が1911年に公布され、後の1916年に制定されることになる世相が影響していると云えます。

そして溝口が描いた本作『山椒大夫』には、戦後の日本が目の当たりにした貧困と不条理な混乱が更に投影されています。
戦争で散々になった家族、人身売買、特権者の横暴、そして華族制度も廃止され、等しく貧しい全国民が本格的に平等を手にし再びゼロから生きようとする希望。

また『西鶴一代女』に込められた階級闘争だったり、『雨月物語』の封建制度における身分だったり、『祇園囃子』で描かれた基本的人権だったりと、歴作のテーマがしっかり活かされているのもポイント。

宮川一夫の天才的キャメラが冴え渡り、日本の美しさを誰よりも巧みに切り取った名匠溝口健二の超傑作です。
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