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ランス・アームストロング ツール・ド・フランス7冠の真実のpanpieのレビュー・感想・評価

3.9
ツール・ド・フランスで7冠と言う前人未到な記録を生みながらずっとドーピングを巡る黒い噂に包まれたランス・アームストロング。
何故彼は嘘をつき続けたかを彼の過去の偉業や当時の映像を織り交ぜて鋭く切り込んで見せるアレックス・ギブニー監督のドキュメンタリー作品。


ツール・ド・フランスは毎年7月にフランス周辺国で行われる平地、山岳、タイムトライアルの合計21ステージ3500㎞で争われる過酷な自転車レースだ。
チーム9人で構成され通常はエース一人が優勝を狙う。
エース以外はアシストに回る。
先頭の選手は風除けで30%ものエネルギーを余計に使うので交代して行う。
優勝した選手には黄色のジャージ名誉の証〝マイヨ・ジョーヌ〟が送られる。

ランスは精巣腫瘍から始まり腹部、肺、脳に癌が転移し1996年に生存率50%の精巣腫瘍切除、続いて脳腫瘍切除に成功した。
その後努力を重ねて見事現役復帰しその後のツール・ド・フランスでの7冠を果たす。
でもいつも輝かしい記録にはドーピング疑惑が付いて回る。
2005年引退。
2009年現役復帰。
一度は引退したのに何故またカムバックしたのか?


癌が脳にまで転移して手術に成功しそこからの現役復帰はまさにアメリカンドリームだろう。
ナイキなど多くのアメリカ企業がランスのスポンサーを申し出て癌サバイバー団体が基金を設立し実際にランスが癌に侵された子供達の病院を慰問する映像も流されそこは感動的だ。
結果から悪く言われがちだがこの時のランスに売名とは取れない何か尊い気持ちを感じる。

そしてドーピングの権威の様なミケーレ・フェラーリ医師がドーピングや食事を指導した。
当時の選手は皆ドーピングしており誰もがフェラーリ医師の指導を仰ぎたかったそうだ。
本当なのか?
ある選手が
「銃撃戦でナイフで戦う様なもの。
銃を持たないと」
と語っている。
自分より格下の選手が上り坂で自分を軽々と抜かしていく。
その後ろ姿を見てドーピングを始めようと決めたという。

チームで戦う場合一人がドーピングをしているとなると他の選手にも捜査の手が回る為なかなか告白しにくい状況を作り〝沈黙の掟〟が効いていたそうだ。
その中にドーピングが発覚して引退した選手もおり当時からランスのドーピングを知っていたと後に告白する選手もいた。
ドーピングしているランスがクリーンなチームに入る事が出来て自分は一度ドーピングで捕まっているからイメージを損ねるからチームには入れないと言われたらランスだってドーピングしているのにと憎しみが募ったとしても仕方がないだろう。
いずれバレる運命だったのだ。
あの引退でおとなしくしていればいいものの2009年復帰しまた表舞台に立ってしまった。
くすぶっていた炎が再燃しても仕方がない。

ドーピングの中に〝血液ドーピング〟というのがあって何だろう?と思ったら検査する前にドーピングした血液を抜いて血液袋に溜めレース中にその血液を点滴をするかの様にまた体に戻すという恐ろしさ!
血液袋が見つかったら一巻の終わりだったと後に語っている。
恐ろしい事を思いつくものだ。

元チームメイトのランディス、ヴォーターズ、ハミルトン、アンドリュー、ヒンカピーがランスがドーピングしていた事を告白した。
ランスの起訴に協力したら半年の出場停止、しなければ永久追放と言われたら誰だって協力するだろう。
ランスは永久追放となりスポンサーは契約解除、ツール・ド・フランスのタイトルは全て剥奪されランスがとった7冠は繰り上げされる事なく未だ無冠だ。

一つついてしまった嘘をバレない様にする為にまた嘘をつく。
今の自分の地位を守りたい為にまた嘘をつく。
しかも彼の話術には説得力があり凛とした目力があった。
ギブニー監督ですらその目に騙された。
彼のつき続けた嘘は許せないが癌の子供達を見舞ったランスは虚栄やポーズだけでやった事だとは思えなかった。
私達も彼を責められるだろうか。
ズルをして薬の力を借りてしまったのははやり過ぎだったけど彼のもっと上を目指す姿勢に嘘はなかったと私は思う。
ただ残念だったのは結果的に彼は父親として自分の子供に嘘を付いた姿を見せてしまった事だ。
癌の子供達にも嘘のないクリーンな姿を残して欲しかった。

嘘を付いていた事を暴露した今もドーピングなしで今度は自転車ではないけれどランスは戦っている。
汚名返上は大変な事だがこれからクリーンで生きて欲しい。
私はお人好しかな。
心から頑張って欲しいと思う。


フォローしているクワンさんのレビューでずっと気になっていたがTSUTAYAでは扱ってなく半ば諦めていたらWOWOWで放送されていた!
見逃したがオンデマンドで今月末まで鑑賞できると知り駆け込みセーフで観ることが出来た。
ギブニー監督作品は観たい作品が多くて機会があればこれからも探していきたい。
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