愛の渇きの作品情報・感想・評価

「愛の渇き」に投稿された感想・評価

このレビューはネタバレを含みます


これヤベーですよ。映画の持つ熱量というか、黒い炎とでも呼ぶべき寒々しくも灼熱めいたものがあって。一言で言えば面白いんですよ、マジで。

三島由紀夫の同名小説が原作ということなんですが、例のごとく三島由紀夫の書いたものは読んだことない。んですけど、科白(まはあ、どこまで原作通りなのかは知りませんが、少なくともわざわざ入れてるナレーションなんかは引用してそうな気が)とかすごい良い。冒頭の台詞からして「この体にもまだ生きた血が流れていると知れて嬉しい(意訳)」みたいなことを老体たる弥吉の口からいわせますからね。このシチュエーションというのが悦子(浅丘ルリ子)に髭剃りをさせていて手元が滑って弥吉の首元から出血させる、というシーンなわけですが、鶏のカットとか色々と冒頭から炸裂しています。これに限りませんが、他人に髭をそらせているシーンってかなり緊張感がある気がするんですけど、どうなんでしょうかねこれ。個人的な感覚の問題なのでしょうか。「カラーパープル」はシチュエーションと関係性から生じるものだと思いますし。

さて、両者の関係性も不明なまま冒頭からそんなシーンをぶっ込んだ監督は蔵原惟繕という、ぶっちゃけまったく知らない人でした。が、本多猪四郎の紹介で映画界に入ったり代表作に「南極大陸」があったりと、名前はともかく腕はあるようです。ていうか腕がなかったらこの映画撮れないでしょうし。



この人の作品はこれしか観ていないんですが、カメラワークがすごい面白い。やたらと真上からの俯瞰で撮ったり、そうかと思えばその俯瞰の長いカットから下がっていって人物の目線と同じ位置になったり。まあ、これは食卓のシーンで最初の方と終盤の方で同じように使われていて、対比的に使っていることはわかるんですが、そんなカメラワークはあまり観たことがなかったのでちょっと感動しました。

ほかにもラスト近くの温室でのシーンでワンカットで温室の内外での三郎と悦子のやり取りをカメラを軸にして撮っていたり、ともかく面白いカメラワークをしています。
カメラワークで言えば人物のやりとりでも顔面ドアップだったりめちゃくちゃ引いたりと、なんかもう画面内のものは大して動きがないのにその画面の枠が忙しない。

物語そのものの面白さもさることながら、やはり役者の顔による力がかなり働いていますです。
まあ言うまでもなく浅丘ルリ子なんですけど、凄まじいものがあります。大仰な演技というわけではないのですが、表情の微細な変化や声音だけでその内側に蟠っているものを垣間見せるその力は、演出と相まって引き笑いしてしまうくらいです。

あと三郎のなんもわかってないくせに、それゆえに確実に悦子にダメージを与えていく、無頓着の残虐さというものも素晴らしい。

補足的に心情説明をしていたりするのは、まあ仕方ない部分ではありましょう。あんな複雑な内面を表情だけで見せるのは不可能ですし、それは小説という媒体の最たる強みを三島由紀夫が生かしたがゆえであるわけで。むしろそれをそのままナレーションとして持ってくるという大胆で、それこそ不敵といってもいいくらいストレートな演出に逆に文句とか言えない。

ほかにも「クローズゼロ」くらいでしか観たことないんですが、人物をすごい引きで撮ってその会話を画面上の字幕で表現していたり。
なんかすごい、映画の総合芸術性みたいなものを楽しめているような気がしました。

傍から見ているとストーカー気質な女の一人相撲とも取れるわけで、というかそういうふうに観るのもあながち間違いではないとは思うのですが、ありきたりな昼ドラではないのがなかなかどうして面白いところ。

はっきり言ってしまえば、この物語の主役であるところの悦子は明確に悪の領域にいる人間です。もちろん、その境遇に同情の余地がないわけではありませんが、しかしろくすっぽ働いていない家の長男や、悦子を慰みものにするスケベじじいにしても、まして腹立つとはいえ何も悪事を働いていない(まあ避妊はしろよ、とは思いますが)三郎や美代があんな仕打ちを受けるいわれはないわけです。

状況、というか描かれる環境が実に見事で、悦子はいわばこの金持ちな杉本家における異邦人でありながらもチェスにおけるクイーンであるわけで、キングたる弥吉をその体で懐柔している彼女は実質的な実行者でもあるのです。そんな歪な環境そのものが、悦子の歪みを生み出したのではないか。

彼女が魔女のように描かれているのは確かで、異様に長い爪や目元のメイクなんかは「黒い十人の女」の岸惠子のそれよりも鋭い。ただ、なんというか魔女は魔女なんですけど良心のある魔女というか、それゆえに苦しみ、しかしその人間性の残滓ゆえに他者を巻き込もうとするはた迷惑さが、悦子の素晴らしいところなんですよね。
と、書いていて思ったのですが「マジカル・ガール」的でもあり、その意味では「まどマギ」的であるとも言えるかもしれませんね。

二度ある炎のシーン。ここの撮影の感じといい、悦子の魔女っぽさといい、「ウィッチ」や「地獄愛」っぽさすらあってちょっと感動すら覚えました。

で、自分の苦しみの元である三郎と一瞬ながら通じ合うシーンがあるわけですが、しかし三郎の純粋無垢(ていうかただの馬鹿なような気もしなくもないのですが、本を読んでたりとかしてるので一概に言い切れないのがまたなんとも)さと悦子のどす黒さは相容れるはずもなく、むしろ彼の純粋無垢さが苦しみの元凶である悦子は、最後にぶち殺してしまいます。

この辺の落ち着きぷりといい、どこかさえざえとした表情といい、似たような経験があってどちらかというと三郎より悦子よりな自分はもう陶然モノです。この一線を越えるシーン(まあ、その前に子どもを堕胎させているのですが)は、やはりフィクションでしか得られない快楽でしょう。

その直後の、くどいまでの一線を超えた結果=三郎の死ぬ瞬間を写し取るのは笑いますが。
ラストの朝日をバックに大阪に向かう悦子のかっこよさたるや(このシーンだけカラーになるのとか、「シンドラーのリスト」よりも先んじてるじゃん!。とか言い出すともっと最初にありそうな気はするのでやめますが)、どう見ても覚醒した魔女です本当にありがとうございました。

これは傑作と言って差し支えないのではなかろうか。
N

Nの感想・評価

4.5
 斬新で印象深いシーンが続く。ラストシーンもさることながら、祭りのシーン、川に石を投げ込むシーン、航空撮影からそのまま食卓を上から映すシーンが良い。そして、三郎の汗と悦子の火傷、ビンタ。原作も読んでみたい。
 それにしても、この浅丘ルリ子さんは加賀まりこさんに似ているな。
以前、原作を読んでいたけどストーリーをすっかり忘れていた。
正に浅丘ルリ子を見るための映画。
白目を剥いて倒れるシーンすら美しい。
日本人離れした顔立ちだけど着物姿がよく似合う。
悦子の倒錯した愛を見事に表現している。

ラストはまさかの展開に唖然。
基本モノクロだけど、最後に赤を背景に歩いて来る悦子がカッコいい。
会話をしている人物をロングショットで捉えて、あえて台詞を字幕にしているシーンとかがあって実験的な画作りが面白かった。

2018.2.6 BSトゥエルビ(録画)
たまたま三島由紀夫の作品の映画ということで観た。徐々に悦子の精神が歪んでいく。とにかく浅丘ルリ子は綺麗でしたね。
buccimane

buccimaneの感想・評価

4.0
設定がギョッとする割には物語はそんなに転がらないけどそれがドゥーム感あって好き。
いちいち何かあるたびに浅丘さんの顔面を大写しにしてくれるのがなんともユーザーフレンドリーと言える。
個人的にはデパートで靴下の前にメロンか何かを買った時にアラ重いのねって言うとこで完全にキュン死した。
TsutomuZ

TsutomuZの感想・評価

3.7
白黒映画だから、映える赤。
ラストシーンの赤は地獄の炎か希望の朝焼けか、はたまた人の血か。
浅丘ルリ子のアップが多く、その美貌を堪能できる。

若き石立鉄男。お馴染みのヘアスタイルでない石立鉄男が見れて新鮮。演技もヒットしてからのわざとらしいコメディタッチのではないのが見れて、それも新鮮だった。

ストーリーはわからなかった。殺人を犯すだけの必然性のようなものが描ききれてなく不思議だった。まあ、そのまま楽しめばいいのかもしれないが。
神保町シアターにて。

予想をはるかに上回る面白さで驚いた。
原作が最高なのに、負けてなかった。

斬新なカメラワークから音楽から、見事であった。

印象的な場面

三郎の顔面
ザボンを切る、食う
食卓の俯瞰
映像と編集について素晴らしすぎる!だいたい楽しんだ作品、説話の弱点がたまに現れても。最後のディナーのシーンが大好きだった。笑
三島由紀夫原作をスタイリッシュに描いている。特有の生臭さが調和され、無駄を削ぎ落とした感じが良かった。やっぱ撮り方がいかしてる。悦子の陶酔した感じを俯瞰して撮る感じが好きです。
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