叙情的なハードボイルド、という分類でいいのだろうか、明るい未来がある予感がまったくしない、生きていることの意味を失ったまま死ぬこともできない二人の男の逃亡劇。いや、実際には逃亡していないようなものなので、「待避劇」か。
妻夫木聡、豊川悦司というキャスティングのネームバリューをもってしても、資金ショートの可能性があったという本作。
完成作品を観ると、行動やセリフではなく、台湾という土地の濃密な空気が「行間」を埋めるという制作サイドの意図が成功していることがよくわかるが、確かに台本段階では、読み手の想像力が相当試されるだろうから、お金を出す人たちが躊躇ったのもわかるような気がする。
内容については、キーパーソンとなる、二人の男が出会う可憐な台湾女性が、その最期に二人の心情の何らかを仮託できるまでには、キャラクターや二人との関係性ができあがっていないように感じられた。
男たちが共通して知るある女性に酷似しているという設定なので、彼女は実在していない、二人の男の贖罪意識と現実逃避的な「楽園」の象徴だったのかもしれないが、であれば、最近の映画で言えば、「バーニング」「宵闇真珠」のヒロインのようにもっともっと妖精的な在り方でも良かったかも。
三人の暗喩に満ちた会話と青春映画的に密接な行動のバランスがあまり上手くとれておらず、彼女が何かのシンボルというよりは、男性事情に巻き込まれた犠牲者、という「実在感」が勝ってしまって、雰囲気重視の映画を、必要以上に平地に近づけてしまっているように思えた。ただし、「楽園」の「次」なんて無いんだ、ということが本作の「結論」と考えるなら、これが正しい姿だろうか。
妻夫木、豊川の演技の力で、決して退屈することは無いが、物語としては説明を省きすぎていて、独りよがりと捉えられるかもしれない。ただ、こういった一般的なサービス精神とは離れた意識で作られる作品は確かに中々実現しないだろうから、それを成し遂げた監督や出演者は素敵だな、と思った。