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ノマドランドのYYamadaのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.0
【戴冠!アカデミー作品賞】
 第93回 (2021) アカデミー3部門受賞
 (作品/監督/主演女優)

~脱「勧善懲悪」の「新西部劇」~
【ネオ・ウェスタンのススメ】
『ノマドランド』(2021)

◆本作の舞台
ネバダ州エンパイア→アリゾナ州クォーツサイト→サウスダコタ州バッドランドほか
◆連関する時代背景
・2008年 / リーマンショック
★2011年 / 本作の舞台

〈本作の粗筋〉 eiga.comより抜粋
・ネバダ州の企業城下町で暮らす60代の女性ファーンは、リーマンショックによる企業倒産の影響で住み慣れた家を失い、「現代のノマド(遊牧民)」として、過酷な季節労働の現場を渡り歩きながら、キャンピングカーの車上生活を送ることに。
・毎日を懸命に乗り越えながら、行く先々で出会うノマドたちと心の交流を重ね、誇りを持って自由を生きる彼女の旅は続いていく…。

〈見処〉
①21世紀の路上のサバイバーを描く、
 至極のロード・ムービー
・『ノマドランド』は、2017年に発表されたノンフィクション『ノマド: 漂流する高齢労働者たち』を原作として、2021年に公開されたドラマ映画。
・本作は、オスカー女優フランシス・マクドーマンドが主演を務め、アメリカ西部の路上に暮らす車上生活者たちの生き様を大自然の映像美とともに描いた「現代の西部劇」。監督は『ザ・ライダー』(2017)で高く評価され、のちにマーベル超大作『エターナルズ』監督に抜擢されることになる新鋭クロエ・ジャオ。
・第77回ベネチア国際映画祭で最高賞にあたる金獅子賞、第45回トロント国際映画祭でも最高賞の観客賞を受賞するなど高い評価を獲得して賞レースを席巻。第93回アカデミー賞では計6部門でノミネートされ、作品、監督、主演女優賞の3部門を受賞した。

②マクドーマンドとクロエ・ジャオ
・『ファーゴ』『スリー・ビルボード』で2度のアカデミー主演女優賞に輝くフランシス・マクドーマンドは、2017年に刊行された本作の原作ノンフィクションを読破。若かりし時からの憧れであった「RV車の気ままな生活」をしている人々は、実際では経済的な苦境によるものが多く、自分と同じ60代の人が車上生活を余儀なくされることも珍しくないことを知り、強い衝撃を受ける。
・マクドーマンドは、自ら映画化権を購入し、プロデューサーとして映画化の企画を進めることを決意。その最中にトロント国際映画祭でクロエ・ジャオ監督の『ザ・ライダー』を鑑賞、同作の出来映えに感動したマクドーマンドは本作の監督にジャオを起用する。
・本作の主要撮影は2018年6月に始まったが、ノマドの生き様をリアルに描くため、ジャオ監督はマクドーマンドとデヴィッド・ストラザーン以外にプロの俳優を起用せず、前作『ザ・ライダー』同様に「俳優ではない一般人」として、実際に車上生活を送っている人々を役者に起用。
・作中で描かれるノマド同士の自然な掛け合いは、マクドーマンドが実際に車上生活を送り、Amazonの物流拠点で日雇い業務に従事することで、彼女が大女優であることを知らない人もいたほどの「半ドキュメンタリー」所以である。
・本作にて、クロエ・ジャオは有色人種の女性として初めて監督賞。また、3度目の主演女優賞に輝いたマクドーマンドは、製作者と出演者が同一作品でアカデミー賞を受賞した史上初の人物となる。

③結び…本作の見処は?
◎: アメリカの原風景を訪れた者が誰もが体感する「恐怖を感じるほどの壮大な自然美」をシンプルな撮影手法により、鑑賞者に伝えている。過去作品『イントゥ・ザ・ワイルド』『ブロークバック・マウンテン』に引けをとらない畏敬の風景美。
○: 一糸纏わぬ姿や用を足すシーンもさらけ出すフランシス・マクドーマンド。自然でいること=究極の演技であることを示している。
○: 製作費わずか5百万ドルによる傑作誕生は、一重に「一般人のノマド」の日常風景に高いリアリティーがあるため。現代アメリカのリアルな貧困層が白人が多く、本作がロケを行った州は、共和党=ドナルド・トランプが大統領選を優位に進めた地区であることが興味深い。
▲: 刺激的ドラマや、美男美女が演者に集うようなエンターテイメント要素は全くない。良いも悪いも「退屈」な作品。
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