horahuki

神の聖なるネズミ人間のhorahukiのレビュー・感想・評価

神の聖なるネズミ人間(1976年製作の映画)
4.2
ネズミが世界を支配する!!
ネズミが人間になりすまし、気づかぬうちに社会を乗っ取ろうとするボディスナッチャー系ホラー。

カナザワ映画祭in神戸映画資料館。
タイトルの意味不明な感じからは想像できないほどの傑作でした!本家『ボディスナッチャー/恐怖の街』に匹敵するほどの面白さと恐怖。

あらすじ…
主人公は売れない作家。しかも経済が傾いたせいで皆が貧しく、本を出版することもできない。街では廃業するお店が後を絶たず、路上で本を売ろうとするも誰も買ってくれない。自宅の賃貸マンションも追い出され、公園で寝ようとすると、そこの管理をしてる友人が通りかかり「良い場所がある」と廃墟となっているかつての中央銀行に案内される。そこで夜を明かそうとする主人公は、広間で身分の高そうな人たち大人数がパーティをしてるのを目撃し…。

ネズミたちが人間を複製し、元の人間と入れ替わることで街を支配していく。主人公とヒロインとヒロインの父親がそのことに気づきネズミたちを殲滅する薬の開発に奮闘するというお話なのですが、ネズミ人間が暗躍していると警察に通報しても当然信用してくれないし、ネズミと人間の区別が全くつかないので誰を信用すべきなのかもわからない。

いつの間にか街中が全部ネズミに見えてくる。そもそも今目の前にいるヒロインは本物なのか。静かに侵略され追い詰められていく恐怖はボディスナッチャー系の醍醐味でめちゃくちゃハラハラしました。

ネズミ人間と聞くと阿呆らしいですが、ネズミは社会的弱者あるいは飢饉の象徴であり、飢饉に乗じて弱者たちを貪り尽くしさらに追い詰めていく権力者たちの象徴でもあるように思いました。また本作は共産主義国の作品であるため、一部の者たちが富を独占するという資本主義が共産主義に取って代わる恐怖をも描いている。まさに『ボディスナッチャー/恐怖の街』の逆バージョン。

資本主義の権化が作中では(ネズミにとって)救世主とされていることも面白い。もちろん共産主義からしたら最悪な存在なわけですが、新しい世界を創造する神的な存在が貧富の格差を象徴するネズミと結びつくのが風刺として効いている。

当時の情勢はよく知らないけど、本国が経済危機の時に作られた映画なのかもしれませんね。共産主義国からしたら弱者である資本主義が国の危機に乗じて乗っ取りを企てることを恐怖として現実を反映していたのかもしれません。弱者であり忌み嫌うものとして、そして気がつくと溢れかえるほどに増殖するという意味合いも込めてネズミという発想に至ったのだと思います。傑作でした!見てよかった!
horahuki

horahuki